サービスの提供って拒否しちゃいけないってよく聞くけど、ホントに拒否しちゃいけないのでしょうか。
介護保険の居宅サービスの指定基準には、次のように定められています。
(指定基準)
第9条 指定訪問介護事業者は、正当な理由なく指定訪問介護の提供を拒んではならない。
原則では拒否したらダメだけど、正当な理由があれば拒否することもできるってことですね。
では、正当な理由ってなんでしょう。解釈通知には次のように定められています。
(解釈通知)
1 原則として、利用申込に対しては応じなければならない
やっぱり拒否しちゃダメってなってますけど、あくまでも原則ということですね。
2 特に、要介護度や所得の多寡を理由にサービスの提供を拒否することを禁止する
「要介護度5は、たいへんだから拒否」とか「要介護度2は単価が低いから拒否」はダメだってことでしょうね。
あと、「利用者の年収が低いと、支払いが悪そうなので拒否」ってのもダメだって書いてますね。
3 利用者が特定のサービス行為以外の訪問介護サービスの利用を希望することを理由にサービス提供を拒否することも禁止する
「おむつ交換以外しないので、調理サービスは希望されても拒否します」ってのがダメってことでしょね。
4 提供を拒むことのできる正当な理由がある場合とは、
①当該事業所の現員からは利用申込に応じきれない場合
②利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合
③その他利用申込者に対し自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難な場合
つまり、①②③の理由があれば拒否してもよいということになります。
ヘルパーが足りない場合は、正当だと言ってるのでしょうね。サービス提供責任者の人数が足りない場合や、特定の曜日や特定の時間に対応できるヘルパーがいない場合も含まれると読んでよいでしょう。①
通常の事業の実施地域外である場合も正当な理由になるようです。ここからすると、通常の事業の実施地域は、狭いほうが拒否しやすく、広いほうが営業しやすいということになりますでしょうか。
なお、通常の事業の実施地域とは、その地域の方にだけサービスの提供ができるのではなく、通常の実施地域でない方にもサービスを提供してもよいものだと考えられます。
実地指導のとき、次の確認をされることが多いと思います。
○事業所の担当者に、ヒアリングする
「これまでに、サービスを拒否されたことはありますか」と。
おそらく、事業所のみなさんは「え、はい、ありません」と答えるでしょう。
しかし、自治体の担当者さんからすると、事業所の担当者が「拒否してない」って言っても、「ホントかな?」となりますよね。
そのため、「利用開始にあたっての相談経過記録」が求められることもあります。しかし、多くの事業所では、この記録はないことが多いかと思います。
利用開始にあたっての相談経過記録というものは、大阪府などホームページに様式を掲載している自治体もありますが、あらかじめ決められた様式はなく、指定基準にも記録しなければならないとまでは規定されていません。
実地指導では、確認の結果、
①提供拒否をしていて、②正当な理由がない場合は、「文書指導」でしょう。
①提供拒否をしていて、②正当な理由がある場合は、記録を残しましょうと、「口頭指導」でしょう。
①提供拒否がない場合は、「適切」とされるでしょうが、記録を残しましょうとは言われるかもしれません。
実地指導のための具体的な対応は次のとおり
1「利用開始にあたっての相談経過記録」を作成しましょう
2「原則」と「正当な理由」について、よく理解しましょう
「利用開始にあたっての相談経過記録」は、決められた様式はありませんので、罫紙のようなものでも構いません。大阪府には様式がありますのでそれを参考にしてもよいでしょう。相談経過記録といっても利用開始にあたっての記録なので、相談者の氏名を聞くことができない場合は、氏名欄が空欄のままになることもあるでしょう。気軽に記録しておくとよいと思います。記録するポイントとしては次のようなものでしょう。
・相談の開始日、相談経路、相談者と利用予定者の関係
・開始予定の理由、その後の経過
・拒否したのか(拒否した場合、正当な理由を記載)
・連絡待ちのまま放置しないよう、最後まで顛末を記載する
事業所のヘルパーの状況などを説明した上で、利用予定者のほうからお断りされた場合は、やむをえないと思いますが、事業所が正当な理由なく拒否されたと疑われないように記録しましょう。
サービスの提供の拒否は、契約締結前のことを中心的に見られることが多いですが、毎回のサービスについても規定されていると考えられます。そのため、自治体の担当者さんは、次の点について確認することがあります。
1 ヒアリング「毎回のサービスにおいて拒否はありませんか」
2 ヒアリング「サービス時間の変更の連絡についての記録はありますか」
対応としては、2のための電話対応の記録などを全て残していく、またはシフト表などに赤ペンなどで変更の記録を残していくなどが考えられます。どのような記録方法であっても、変更理由を記載して、基本的には事業所都合でないことを明らかにするのがよろしいかと思います。